大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和33年(ネ)272号 判決 1959年6月20日

控訴人(原告) 平野げん

被控訴人(被告) 労働保険審査会

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。千葉労働者災害補償保険審査会が控訴人のなした再審査請求に対して昭和三〇年八月一〇日付でなした審査請求人の申立は認めないとの決定を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、……(省略)……原判決の事実摘示と同一であるから、これをここに引用する。

理由

当裁判所は、当審における証拠調の結果をも斟酌し仔細に審究した結果、次の点を補足する外、原判決理由に説示するところと同一の理由により、控訴人の本訴請求を失当として排斥すべきものと判断したので、ここに原判決の理由の説示を引用する。

原審及び当審における控訴本人尋問の各結果並びに弁論の全趣旨によれば、平野貞夫の自宅が本件事故発生当時千葉県君津郡大貫町(現大佐和町)二、七七三番地にあつたことが認められ、又成立に争のない乙第二、第七、第一〇、第一四、第一五号各証、原審証人中島中三の証言、当審における証人奥山正雄同鈴木進の各証言及び現場検証の結果を総合すると、平野貞夫は昭和二九年六月二八日午後三時頃から千葉市幕張町中島アパートの竣工検査に立会い、右立会いは同日午後五時過ぎ終了したが、その後建築主たる中島中三の自宅において酒食を供され、午後七時五分頃右中島宅を辞し酒気を帯びて国鉄幕張駅構内北側線路を横断し、高さ一・二〇メートルもある同駅下り線ホームによじ登ろうとした際列車に接触し、本件災害に遭遇したことが認められる。しかして、労働者災害補償保険法が補償する業務上の災害に該当するためには、労働者が一般的に使用者の指揮命令に基く支配下にある状態において勤務するに際し、これと相当因果関係ある事故に起因する災害たることを要するものと解するのを相当とするところ、原判決及び叙上説示のごとく、訴外高長谷建設株式会社の設計並びに現場監督係として同会社に勤務していた平野貞夫は、同会社名義をもつて施工していた千葉市幕張町所在の中島アパート建築工事の竣工検査に立会い、その勤務が終了した後、建築主たる中島中三宅において個人的に夕食を供され、酒気を帯びて自宅への帰途、国鉄幕張駅構内線路を横切り同駅下り線ホームをよじ登ろうとした際に、右駅通過の列車に接触して負傷し遂に死亡するに至つたものであつて、従つてこれを目して前記業務上の災害に該当するものとはいえない。当審における証人中島中三、同五十嵐誠二の各証言及び控訴本人尋問の結果中右引用した原判決理由における事実認定並びに前叙の事実認定に反する部分はいずれも信用し難く、その他これを左右するに足る証拠はない。

しからば、原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべく、控訴費用の負担については民事訴訟法第九五条第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 二宮節二郎 奥野利一 大沢博)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例